【論文】:ゴムジャングルジム仮説 — 場の量子論から量子重力への哲学的アプローチ【2025年11月16日 改訂版】

(The “Elastic Spacetime Lattice” Hypothesis: A Philosophical Approach from Quantum Field Theory to Quantum Gravity)


要旨 (Abstract)

本稿は、量子力学における「粒子」の定義、および「一般相対性理論」と「量子力学」の間に存在する根本的な矛盾(特にブラックホール特異点問題)に対し、統一的な解釈モデルとして「ゴムジャングルジム仮説(Elastic Spacetime Lattice Hypothesis)」を提唱するものである。
本仮説の核心は、宇宙の「場(Field)」を「ジャングルジム」という離散的な格子構造として定義し、「粒子」をその格子が振動する「現象」として再定義することにある。
本稿では、この仮説が「場の量子論(QFT)」の諸現象を直感的に説明するだけでなく、アインシュタインの一般相対性理論における「時空の歪み(重力)」を、「ジャングルジムの”交点(ノード)”が、隣接する交点を吸収・合体するプロセス」として、よりミクロなレベルで再定義する。
このモデルによれば、ブラックホールの「特異点」は体積ゼロの「点」ではなく、空間の最小単位(交点)が超高密度に凝縮した「有限の”塊”」となる。これにより計算上の「無限大」の破綻を回避できる。さらに、この「塊」がエネルギーを蓄積する「限界」に達した際、超過分を「ブラックホール・ジェット」として放出し「帳尻を合わせる」という、新たな自己調整メカニズムを提唱する。


1. 序論:物理学の「2つの壁」

現代物理学は、2つの偉大な理論によって支えられているが、その2つは根本的に相容れない。

  1. 一般相対性理論: 重力を「滑らか(連続的)」な時空の”歪み”として記述する、マクロな理論。
  2. 量子力学 (場の量子論): 物質を「飛び飛び(離散的)」な場の”現象”として記述する、ミクロな理論。

この2つの理論は、ブラックホールの「特異点」やビッグバンの瞬間のように、極小の領域で極大な重力が発生する場所で、互いに矛盾して計算が「破綻(無限大)」する。さらに、量子力学の「粒子と波の二重性」や「観測問題」は、100年以上も直感的な解釈を拒み続けている。
本仮説は、この「解釈の壁」と「重力の壁」を、「空間(ジャングルジム)」の構造そのものに立ち返って、統一的に理解しようとする試みである。


2. 仮説の提示:「ゴムジャングルジム」モデル

2-1. 「場」としてのジャングルジム

空間(時空)は、何もない「容器」ではなく、宇宙全体に張り巡らされた「ゴム製のジャングルジム」のような、物理的な実体(=量子場)であると考える。このジャングルジムは、「交点(ノード)」と「棒(リンク)」で構成される離散的な格子構造(空間の最小単位)を持つと仮定する。

2-2. 「現象」としての粒子

一般に「粒子(光子や電子)」と呼ばれるものは、「ビー玉」のような固定的な”モノ”ではない。それは、このジャングルジム(場)がエネルギーを受け取って「振動(励起)」する「現象」そのものである。その「振動パターン」の違いが、電子や光子といった「個性」として認識される。(これは超弦理論の「紐の振動」という発想と本質的に共通する)

2-3. 「収束」としての観測

量子力学的な「波(可能性)」が「1点に収束する」という「観測問題」は、この「現象(波)」が、スクリーンや電子といった他の「ジャングルジムの交点」と相互作用する瞬間として説明される。伝播する「現象」が、相互作用の瞬間にその1点に「収束」し、エネルギーと運動量を伝達する姿を、我々は「粒子」と誤認している。


3. 場の量子論の再解釈(ミクロな現象)

本仮説は、二重スリット実験やコンプトン効果といった量子現象を、直感的に説明する。

  • 二重スリット実験: 「現象(波)」はジャングルジムを伝播し、両方のスリットを通過する。しかしスクリーン(観測点)との相互作用の瞬間に「収束」し、「1つの交点」で「1つの粒子」として検出される。
  • コンプトン効果: 「現象(波)」が「電子という別の現象(電子場)」と相互作用する際、1点に「収束」し、エネルギーと運動量を「粒子(弾丸)」のように交換する。

4. 重力・特異点問題への拡張(マクロな現象)

本仮説の真価は、重力の問題に「量子レベルの”メカニズム”」を導入できる点にある。

4-1. 「重力(時空の歪み)」の正体

アインシュタインは重力を「時空が歪む”結果”」として記述した。本仮説は、その”原因”を以下のように定義する。
エネルギー(質量)が集中した「交点」は「膨らむ」。この「膨らんだ交点」は、そのエネルギーを維持するために、隣接する「交点(空間)」を「侵食・吸収・合体」する。
この「交点の吸収・合体」プロセスこそが、マクロな視点から見たときの「時空の歪み(重力)」の正体である。空間の「網の目」が、中心に向かって粗く(少なく)なっていくイメージである。

4-2. 特異点の再定義:破綻の回避

アインシュタインの理論が破綻したのは、質量を「体積ゼロの”点”」に圧縮しようとしたからである。
しかし本仮説では、空間に「交点」という最小単位があるため、「体積ゼロ」にはなり得ない。ブラックホールの中心(特異点)とは、**「体積ゼロの点」ではなく、「膨らみ、隣の空間を吸収し尽くした、”超巨大な1つの交点”(=多くの交点の塊)」**である。
これは「無限大」ではなく、「有限」の(しかし極大の)密度と体積を持つ。これにより、計算の破綻が回避される。

4-3. ブラックホール・ジェット:限界と帳尻合わせ

この「交点の塊(特異点)」は、無限にエネルギーを蓄えられるわけではない。「有限」である以上、必ずその「蓄積の限界」が存在する。
ホーキング放射が「縁」で起こる緩やかな蒸発(汗)であるのに対し、本仮説は、中心核そのものが「限界」に達した際、その超過エネルギーを、**「ブラックホール・ジェット」という形で両極に噴射し、強制的に「帳尻を合わせる」**のだと提唱する。
特異点は「バグ」ではなく、宇宙のエネルギーバランスを調整する「バルブ」として機能している可能性がある。


5. 既存の物理学理論との関連性

5-1. 場の量子論 (QFT) と ループ量子重力 (LQG)

本仮説は、思想的にこの2つの理論と強く共鳴する。

  • 場の量子論 (QFT): 「粒子=場の現象」という本仮説の根幹は、QFTの標準的な解釈と一致する。
  • ループ量子重力理論 (LQG): 「空間に最小単位(格子)がある」「特異点は”点”ではない」という本仮説の重力モデルは、超弦理論のライバル理論であるLQGの中心思想と、驚くほど一致している。LQGは、本仮説のような「ボトムアップ(3次元の現実から考える)」アプローチの代表格である。

5-2. 超弦理論 (String Theory) との対比

超弦理論もまた、「粒子=紐の振動」とし、特異点の破綻を(紐の”長さ”によって)回避する。これは「トップダウン(数学的な美しさ・高次元)」のアプローチである。
本仮説は、SF的な高次元を仮定せず、我々の「3次元空間(ジャングルジム)」のルールそのものを問い直すことで、「腑に落ちる」形での量子重力の理解を目指すものである。


6. 結論と展望

「ゴムジャングルジム仮説」は、当初は「粒子」の解釈(場の量子論)から始まったが、その論理的な帰結は、必然的に「重力」の解釈(量子重力理論)へと拡張された。
本仮説は、「空間の最小単位(交点)」が「吸収・合体」することで重力を生み出し、「交点の塊(特異点)」が「限界」に達することでジェットを生むという、一貫した世界観(モデル)を提示する。